リスキーシフト
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リスキーシフトとは何か?
リスキーシフトとは、集団での意思決定において、個々のメンバーが単独で判断する場合よりも、よりリスクの高い選択をする傾向が強まる現象を指します。この現象は、集団討議がメンバーのリスク選好を極端に変えることにより起こり、1961年に社会心理学者ジェームズ・ストーナーによって初めて提唱されました。リスキーシフトは、集団極性化(group polarization)の一形態であり、集団での意思決定が個人の意見を大きく変え、より過激な選択を導くことを示しています。
この現象は、職場環境における集団での意思決定、たとえばプロジェクトの方針決定やリスクのある戦略の採用に大きな影響を及ぼすことがあります。本ページでは、リスキーシフトがどのように職場に影響を及ぼし、どのようなメカニズムによって発生するのか、そしてその影響を最小限に抑えるための方法について詳しく解説します。
職場におけるリスキーシフトのメカニズム
職場環境においてリスキーシフトが発生する理由はいくつかあります。以下は、その主要なメカニズムです。
1. 責任の分散
集団での意思決定では、決定に伴う責任が集団全体に分散されるため、各メンバーが負う責任感が薄れがちです。結果として、メンバーはリスクの高い選択肢を支持しやすくなります。職場では、特にチームプロジェクトでの意思決定において、責任感の分散がリスキーシフトを促進する要因となります。メンバーが「もし失敗しても、自分一人の責任ではない」という感覚を持つと、よりリスクを取ることに抵抗がなくなります。
2. 社会的比較と集団の期待
職場内での集団討議では、他のメンバーと自分の意見を比較することが頻繁に行われます。これにより、特に「リーダーシップを示したい」「積極的でありたい」という圧力があると、メンバーはリスクを取る方向に意見を変える傾向があります。集団内のメンバーがリスクを取る姿勢を見せると、それに対抗するか、さらなる賛同を示すために、他のメンバーもリスキーな意見を支持しやすくなります。
3. 説得的論拠の存在
集団での討議では、リスキーな選択を支持する新たな論拠や情報が次々と提供されることがあります。これにより、最初は慎重だったメンバーも、次第にリスキーな選択の方が妥当であると考え始めることがあります。特に職場では、経験豊富なメンバーやカリスマ的なリーダーがリスキーな戦略を支持する場合、その論拠に納得して集団全体がリスキーな方向にシフトすることがしばしば見られます。
職場環境におけるリスキーシフトの具体例
職場環境でリスキーシフトが発生する具体的な事例を見てみましょう。
1. プロジェクト投資の決定
例えば、あるプロジェクトチームが新規事業に多額の投資を行うかどうかを検討しているとします。個々のメンバーは慎重であり、過度なリスクを取るべきではないと考えていたかもしれません。しかし、集団で議論する過程で「他社が成功している」「チャンスを逃すべきではない」という強い意見が支持されることで、チーム全体としてリスキーな投資決定を行う可能性が高まります。
2. 製品開発におけるリスクのある技術の採用
新製品の開発において、革新的だがリスクの高い技術を導入するかどうかを決める際、個々のエンジニアや開発担当者は安全な選択を推奨することがあります。しかし、チーム内で「技術的な挑戦が必要だ」「競争に勝つためにリスクを取るべきだ」という意見が支配的になると、チーム全体がよりリスキーな技術を選択する方向に動くことがあります。
3. マーケティング戦略の策定
マーケティング部門で新しい広告キャンペーンを計画する場合も、リスキーシフトが起こり得ます。個々のメンバーは無難なメッセージを選ぼうとするかもしれませんが、集団として「バイラル効果を狙って大胆なメッセージにしよう」という方向に討議が進むことで、結果的にリスクの高い戦略が採用されることがあります。
職場でのリスキーシフトを防止するための対策
職場でリスキーシフトが発生することを防ぐためには、いくつかの対策を講じることが有効です。
1. デビルズ・アドボケイトの役割を設定する
集団討議の際に、意図的に反対意見を述べる役割を持つ「デビルズ・アドボケイト」を設定することで、リスキーな方向に偏りすぎることを防ぐことができます。この役割の人は、他のメンバーが見落としているリスクを指摘し、議論をバランスの取れたものにします。
2. 匿名投票を導入する
集団での意思決定の際に、メンバーの意見を匿名で集めることによって、他者からの影響や社会的な圧力を軽減することができます。これにより、各メンバーが自分の本心に基づいて意見を述べやすくなり、リスキーシフトを抑える効果があります。
3. 多様な視点を取り入れる
集団の構成メンバーが同質であるとリスキーシフトが発生しやすくなります。異なる背景や経験を持つメンバーを集めることで、多角的な視点が加わり、バランスの取れた意思決定が促進されます。特に外部の専門家の意見を取り入れることは、集団内部での過度なリスク選好を防ぐ有効な手段となります。
4. 意思決定プロセスの透明化
意思決定の過程を記録し、全メンバーに共有することで、責任の所在を明確にし、メンバー全員が納得したうえでリスクを取る選択をすることができます。透明性のあるプロセスは、過度なリスク選好を抑制し、持続可能な意思決定を促します。
結論
リスキーシフトは、職場での集団意思決定においてしばしば見られる現象であり、プロジェクトの成功や組織の健全性に大きな影響を与えます。集団での討議や意思決定が必ずしも悪いわけではありませんが、リスキーシフトに対する適切な理解と対策を持つことが、バランスの取れたリスク管理と持続可能な成功を実現するためには不可欠です。デビルズ・アドボケイトの役割設定や匿名投票、多様な視点の導入などの対策を通じて、集団でのリスク選好を適切に管理し、健全な意思決定プロセスを構築していきましょう。