第三者話法
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第三者話法とは?
第三者話法とは、自分の主張や提案を直接伝えるのではなく、「第三者」の意見や事例を引用しながら間接的に伝える手法を指します。商品やサービスの良さを訴えるときに「私のおすすめは~です」と言うのではなく、「他社でも採用されていて高い評価を得ています」と表現するようなイメージです。直接的な押し付けにならないため、相手から見たときの抵抗感が少なくなり、信頼感や説得力が増す効果が期待できます。
この手法は営業の場面だけでなく、上司が部下へ助言をするときや、同僚とアイデアを共有する際など、あらゆるコミュニケーションの場で役立ちます。自分の意見が絶対だと主張するのではなく「専門家がこう言っています」「他の事例でもこうでした」という客観的な根拠を示すため、相手は納得しやすくなるからです。さらに、相手と似た属性を持つ人物の事例であれば共感を引き出しやすくなり、受け止め方が一層ポジティブに変化します。
たとえば、初めて会う取引先に「弊社の商品は素晴らしいんです」と自己評価だけで伝えるのは、聞き手にとってやや押しつけがましい印象を与えるかもしれません。しかし「先週別の企業が導入を決めて、その後すぐに生産コストが削減できたそうです」と伝えれば、聴衆は「それなら自分たちも同じように効果を得られるかもしれない」という視点を自然に持ちやすくなります。これこそが第三者話法の大きなメリットです。
マイフレンドジョンテクニックとの違い
第三者話法にはさまざまな実践方法がありますが、その一例として有名なのが「マイフレンドジョンテクニック」です。これは心理療法家ミルトン・エリクソンが好んで用いた方法で、架空の友人ジョンのエピソードを紹介するスタイルとして知られています。
マイフレンドジョンテクニックは第三者話法の一種であり、特定の人物(ジョン)の体験談を用いて自分の伝えたいメッセージを含ませる点が特徴です。たとえば、営業トークで「私の友人ジョンがこの商品を試したところ、仕事効率が向上したそうです」と語ると、相手はジョンという具体的な人の成功事例として聞くことになります。「私自身の意見」だけを押し出すよりも「ジョンがそう言うなら」といった納得感につながりやすいのです。
一方、第三者話法全体がすべてマイフレンドジョンテクニックに当てはまるわけではありません。第三者話法は広義であり、たとえば「一般的に多くの人が使っている」「市場のデータによると多くの会社が導入して成功している」といった形でも成立します。それに対してマイフレンドジョンテクニックは、よりパーソナルかつ具体的な第三者を持ち出し、しかもその人物をしばしば架空として設定する点でユニークです。
ウィンザー効果との違い
第三者話法と混同されやすい概念として「ウィンザー効果」というものがあります。ウィンザー効果は、「当事者自身が主張する情報よりも、第三者から伝えられる情報のほうが信頼されやすい」という心理現象を指します。いわゆる口コミやレビューが有効なのは、ウィンザー効果によって「自分以外の人が良いと言っているなら信頼できそうだ」と受け取られるからです。
これに対して第三者話法は、「自分が伝えたい内容を、あたかも第三者の声として紹介する」コミュニケーション技法です。ウィンザー効果は「受け手側の心理的反応」を示すものであり、第三者話法は「送り手側の話し方の工夫」にフォーカスしているといえます。もちろん両者は密接に関係しており、第三者話法を巧みに使えばウィンザー効果を引き出しやすくなるという相乗効果があります。
第三者話法をマネジメントに活用する
第三者話法は営業トークや広告だけでなく、組織内のマネジメントにも効果的に活用できます。メンバーに対して何かを説得したい、あるいは指導をしたいときに、ただ「こうしたらいいよ」と上司の主観だけを押しつけるのでは、相手に反発心が生まれがちです。しかし、第三者話法を用いれば、場の雰囲気を和らげつつスムーズにアドバイスを伝えられます。
1. フィードバックをスムーズにする
部下や後輩への指摘は、直接的に「あなたのやり方は間違っている」と言うとショックを与える可能性があります。しかし、「同様の課題に直面したチームが、ある改善策を試して成果を上げていました。あなたも試してみない?」といった形で、他の事例を持ち出すと穏やかな印象になります。指摘というより、知識共有や情報提供と捉えられやすいため、相手は素直に受け取る傾向が強くなるでしょう。
さらに「ほかの部署でも似たケースがあったそうだけれど、やり方を変えたら納期が短縮できたそうだよ」と具体的に述べれば、「自分にも適用できるかも」とイメージしやすくなり、前向きな行動につながりやすくなります。
2. 成功事例の導入によるモチベーション向上
マネジメントの大切な役割の一つは、メンバーのモチベーションを高めることです。ここでも第三者話法が有効です。「以前、このような難題に直面したプロジェクトがあったけど、メンバー同士のコミュニケーションを変えたことでうまく乗り越えられたんだ」といった成功事例を挙げれば、精神的なハードルが下がりやすくなります。
「他の人も同じ問題を抱えていたけれど、やり方次第でクリアできたのなら自分たちもできるかもしれない」と思ってもらうことで、協力体制が整い、前向きに課題解決に取り組む土台を築けるのです。
3. 変革を円滑に進める
組織改革や新しい仕組みを導入するときに、「この新制度は絶対に必要だから、すぐに始めよう」というトップダウン型のアプローチだけでは、反発や混乱が起きやすいものです。そこで「業界トップ企業がこのシステムを採用して成功しているらしい」と例を出すと、「あの企業が実際に成果を上げているのなら、きっと我々の会社でもメリットがあるはずだ」と検討を前向きに進めやすくなります。
ただし、導入事例を引用する際には、なるべく信頼できるデータや具体的な数字を添えることが重要です。漠然と「いいらしい」という話だけでは、説得力に欠けるからです。人数やコスト、期間などの実績を示すことで、相手が「それなら検討する価値がありそうだ」と考えるようになります。
4. 教育や研修での応用
社内研修や教育の場面でも第三者話法は力を発揮します。「多くの専門家がこのスキルの重要性を指摘しています」「他社の研修でも、この手法を学んで成果を上げていますよ」と伝えることで、自社のメンバーは「そういった根拠があるのなら積極的に学ぼう」という気持ちになりやすいです。
研修内容に対して「本当に必要なのかな?」と懐疑的な人がいる場合でも、「権威のある第三者も認めている」という情報を出すことで抵抗感が薄れ、学習意欲が高まります。こうした手法は講師自身の話術だけでなく、資料の作り方やスライド上のデータの示し方にも応用できるでしょう。
まとめ
第三者話法は、コミュニケーションにおいて非常に便利な技術です。自分の意見をストレートに伝えるのではなく、「他の人の事例や評価を引用する」というワンクッションを置くことで、相手に対する圧迫感を和らげ、納得を得やすくします。マイフレンドジョンテクニックは、その一例として架空の友人の体験談を使う手法ですが、いずれも根底には「第三者の声を活用する」という考え方があります。
一方で、ウィンザー効果は「第三者の評価が直接当事者の自己評価よりも信頼されやすい」とする心理現象のことで、第三者話法が機能する背景の一つになっています。第三者話法を使えば、ウィンザー効果がさらに強く働き、より効果的に相手を説得できるでしょう。
そして、第三者話法はマネジメントの現場でも大いに活かせます。部下や後輩に改善を促すときや、チームを新しい方向に導くときに、ただ「こうしろ」と指示するだけでは抵抗を生む可能性があります。そこで「似た状況で成功した別の部署の事例」や「業界のリーダー企業が導入して結果を出している」といった形で間接的に伝えることで、自然と賛同を得られるケースが増えるでしょう。さらに、相手や状況によって最適な第三者が異なるので、一般の利用者の声を引用するのか、それとも専門家の監修データを示すのかなどを柔軟に選ぶ必要があります。
最終的に、第三者話法はシンプルなように見えて多角的な応用が可能なコミュニケーションスキルです。単に「他人が言っていましたよ」と言うだけでなく、引用する第三者の信頼度、聞き手との関係性、具体的な数字や事例の有無など、さまざまな要素が成功のカギを握っています。うまく使いこなせば、説得力を高めるだけでなく、相手と良好な関係を築き、円滑な組織運営や成果向上につなげることができるでしょう。