アンダーマイニング効果
このサイトは一般社団法人日本経営心理士協会をスポンサーとしてZenken株式会社が運営しています。
アンダーマイニング効果とは?
アンダーマイニング効果とは、もともと「やってみたい」「面白そう」といった内発的な動機があった行動に、過度な外発的な報酬や評価が加わることで、その行動に対する純粋な意欲が低下してしまう現象を指します。いわば、もともと心の底から湧き上がっていた「やる気の炎」が、外部から与えられる報酬やプレッシャーによって徐々に弱まってしまう状態です。
この効果は、心理学者のエドワード・L・デシ氏とマーク・R・レッパー氏による1970年代の研究から広く知られるようになりました。彼らは大学生を対象に、もともとパズルが好きな人たちを2つのグループに分けて実験を行いました。片方にはパズルを解くごとに金銭的な報酬を与え、もう片方には報酬を与えずに好きなだけパズルを解いてもらったところ、報酬をもらったグループは「もらえなくなった途端」にパズルへの興味を大きく失ってしまったのです。一方、報酬なしで取り組んだグループは、もともとのパズル好きという気持ちが持続し、その後も自主的に続ける傾向を示しました。
こうした例からもわかるように、活動そのものの「楽しさ」や「達成感」を原動力にしていた場合、外部からの見返りが過度に強調されると、本来のやる気の出どころが変質してしまうことがあるのです。結果的に「しなければいけないから」や「報酬を失うわけにはいかないから」といった義務感や不安感ばかりが先立ち、活動への意欲が削がれてしまいます。
アンダーマイニング効果の具体例
アンダーマイニング効果は、日常生活のさまざまな場面で起こり得ます。たとえば家庭での子育てにおける場面を考えてみましょう。子どもが自発的に勉強したり、興味を持って本を読んでいる場合は、学ぶこと自体を楽しんでいるケースが多いです。ところが、親が「宿題を終わらせたらゲームをしていい」「テストで高得点を取ったらお小遣いを上げる」といった条件を付けすぎると、子どもの意欲は「報酬を得ること」へ向かってしまいます。その結果、報酬がないならやらなくていいという発想になり、本来の学習欲が薄れてしまうかもしれません。
同様に、社会人の仕事現場でも同じことが起きます。もともと「人を助けることが好き」「達成感を得たい」という理由から看護師や介護職を目指していた人が、あまりにも成果主義やノルマに縛られてしまうと、「早くノルマをこなさないと評価が下がる」「目標を達成しないと報酬が得られない」といった外発的な圧力に振り回され、仕事自体の喜びを見失う可能性が高くなります。純粋なやりがいがあったはずなのに、報酬や評価を意識しすぎるあまり気持ちが疲弊してしまうのです。
さらに、趣味の場面でもアンダーマイニング効果は起こり得ます。たとえば、絵を描くことを純粋に楽しんでいた人が、いつの間にか「売れる作品」を描くことに専念するようになり、評価を気にしすぎて疲れてしまうケースです。かつての情熱は「創作そのものを楽しむ」ことにあったのに、いつしか「どんな作品なら受けるだろうか」「買い手は何を求めているのか」といった思考ばかりが優先されると、作り手としてのモチベーションが下がってしまうことがあります。
アンダーマイニング効果の要因
アンダーマイニング効果が起きる背景には、いくつかの心理的メカニズムがあります。主な要因を見ていきましょう。
1. 報酬や評価の目的化
本来の目的が「面白いから」「役立ちたいから」といった内発的な動機であったはずなのに、外発的な報酬(お金や昇進など)が前面に出すぎると、人はそちらに意識を奪われがちです。結果として、「あの手この手で報酬を得る」という発想に陥りやすくなり、もともとの楽しさや誇りが後退してしまいます。
2. 自己決定感の喪失
人は、自分で選んで行動しているという意識があるときにこそ意欲を高める傾向があります。逆に、上司や親から強制的にやらされていると感じると、たとえ好きだった行動であっても、義務感ばかりが強くなります。自主性が奪われたとき、モチベーションが下がるのは自然な流れです。
3. 過度なプレッシャーや監視
外部から「締め切りを守らないと厳しく叱責される」「誰かにずっと見張られている」という状態だと、人は本来の創造性や楽しさを感じにくくなります。自由度を失うことで、内発的な意欲はどうしても弱まりがちです。
4. 過剰な外発的動機づけ
外発的な動機づけ自体が決して悪いわけではありません。しかし、必要以上にインセンティブや評価だけを重視してしまうと、本来の関心事を二の次にしてしまいがちです。結果、最初にあった「やってみたい」という気持ちが霞んでしまうリスクが高まります。
アンダーマイニング効果を避けるには?
アンダーマイニング効果を防ぎ、もともとのやる気や関心を保つためには、いくつかのポイントがあります。以下の方法を意識することで、内発的な動機を失わずに活動を続けられるようになるでしょう。
1. 金銭よりもプロセスを褒める
外発的な報酬としてお金や物品を与えるのではなく、「どんな工夫をしたのか」「どんな点が成長しているのか」に注目して声をかけるようにすると、本人の自己効力感を高めやすくなります。具体的な行動や努力を認められると、人は自分の能力や取り組み自体に誇りを持ちやすくなり、やる気が継続しやすいのです。
2. 自己決定感を大切にする
自主性や裁量を持たせる工夫を意識しましょう。仕事であれば、上司が一方的に細かい指示を出すのではなく、ゴールを提示したうえでアプローチを任せるといった形が理想的です。子どもに対しても、ある程度は自分で選択できる場をつくることで、自分の意志で動いていると実感しやすくなります。
3. 適切な目標設定と段階的ステップ
いきなり高すぎる目標を設定すると、実力差に圧倒されて気力が失われやすくなります。到達可能な小さな目標を積み重ねていくことで、成功体験を得やすくし、内発的なモチベーションを積極的に引き出すことができます。
4. 過度なノルマ・インセンティブの抑制
目先の報酬だけを強調しすぎると、やりたかったはずのことが義務的な作業に変わってしまいます。会社であれば成果主義を導入するにしても、個々の成長やチームワークを並行して評価する仕組みを整えるなど、外発的報酬の活用方法を吟味する必要があります。
5. 内発的動機づけを高めるコミュニケーション
評価を伝えるときも、単純な「結果が良かった」「成績が悪かった」の二元論ではなく、「この部分の工夫は素晴らしい」「こういう発想を大事にしてほしい」という具体的なフィードバックを加えると、相手は活動そのものに対する自信を得やすくなります。その結果、外的な報酬がなくても続けたいと思うようになります。
まとめ
アンダーマイニング効果は、一見メリットに思える外発的な報酬や評価が、かえって内発的な意欲を下げてしまうという、なかなか厄介な心理現象です。特に、「好きで始めた」「意義を感じてやっている」といった情熱を持った行動に対して、不用意に金銭的報酬や評価基準ばかりを押しつけると、元々のやる気の源泉が見えにくくなる恐れがあります。
一方で、すべての外発的報酬が悪いわけではなく、適切に活用すれば「評価されてさらにやる気が出る」「成果を認められて嬉しいから続けたい」という好循環を生み出すこともあります。大切なのは、もともとの内発的な動機が失われないような配慮をすることです。行動の内容や努力の過程に着目したフィードバックを与えたり、達成可能な目標設定をしたり、自主性を尊重する仕組みをつくったりするなど、環境づくりが鍵となります。
たとえば、子育てであれば「報酬で釣る」方法に依存するのではなく、子どもが学ぶこと自体の面白さを感じられるよう導くことが大切です。ビジネスの場面でも、社員一人ひとりの自己決定感を重視し、「ただ数字を追うのではなく、自分らしいやり方を見つけよう」と促す風土があると、やる気を削ぐどころか、むしろ新しいアイデアやイノベーションが生まれやすくなるでしょう。そうして内発的な欲求と外発的な動機づけを上手に共存させることが、長期的な成長とやりがいの継続につながるのです。
アンダーマイニング効果の理解は、教育やビジネス、個人の自己啓発など、あらゆる領域で役立ちます。ぜひ、外発的な報酬に頼りすぎず、内発的な意欲や創造性をいかに伸ばしていくかを考える材料にしてみてください。やりがいを感じながら取り組むことが、結果的に大きな成長と豊かな満足感をもたらしてくれるはずです。
